「なんで俺だけがこんな目に………」
結婚して25年間、妻の不倫の果てに熟年離婚。仕事でもトラブル続出。
そんな一度全てを失った男・結城ナオキ（48歳）の起死回生の物語。
不倫の果てに熟年離婚、一度全てを失ったオトコ
最悪のタイミング
その日は頭痛がひどかった。
朝、会社へ向かう途中にどうにも我慢できなくなり、駅ビルの中のクリニックに立ち寄ったが、強めの頭痛薬を処方されただけで終わった。
どうにか最低限の仕事はこなしたが、部下の強い勧めで午後早い時間に自宅へ帰ることにした。
思えば結婚して25年間、午後早くに自宅へ帰ったことは一度もない。
おそらく妻は習い事やら買い物やらで出かけているだろうから、ひとまず寝ていようと玄関を自分で開けた。
『ただいま』
玄関には、大学生の息子のものでも自分のでもない、安物の革靴が置いてある。
セールスでもきているのかと思ったが、リビングには誰もおらず、声もしなかった。
嫌な予感がして、２階の妻の寝室へ行くと────あとはもう思い出したくない。
夫婦関係の破綻
23歳の時に学生時代の同級生だった妻と結婚し、長男にも恵まれ、それからは仕事に邁進していた。
部長になったのは35歳頃、妻にも長男にも不自由な思いはさせていないはずだった。
どうして、と思わず声を荒げて問い詰めると、妻は悪びれるでもなくこう言い放った。
「あなた────本当につまらないの。」
慰謝料とこの家は渡さない、長男は自分の戸籍に残す、という自分の要求に、妻は心底興味がなさそうにうなずいた。
離婚届は早めにお願いしますね、と言い残して身ひとつで簡単に出て行ってしまった。
＊＊＊
それからというもの、自分の生活は180度変化してしまった。
食事も洗濯も掃除も、一回もやったことがないのでよくわからなかった。
荒れていく家を嫌って息子は家に寄り付かない。
雑然とした広いリビングで、深夜に一人酒を飲むと涙が溢れてくる。
上司からの誘い
そんな自分を見かねてか、ずっとお世話になっている上司が飲みに誘ってくれた。
しかし、上司は上司だ。
離婚の経緯と家事が大変だとかいつまんで話すだけにとどめたが、それでも心配そうな顔で話を聞いてくれた。
「今そんな状態になってるのか……ちょっとね、君の部署の若い子から心配だって聞いてさあ」
『申し訳ありません、常務にそんなご心配をおかけしまして』
「いいのよいいのよ、でもさ、話し相手がいないってかなりきついねえ」
『はあ…………』
自分の苦しみは話し相手がいないなんて単純な話じゃない。
離婚されたのだ、今までの何もかもが崩壊したのだ。
そう思ってグラスを干すと、常務がスマートフォンをいじって目の前の自分へホームページを送ってきた。
「あのさ、もし行き詰まったら僕に相談してくれてもいいんだけど、話しにくいこともあるじゃない。
だから、こういうのはどうかな？」
メッセージを開くと、“電話占い”という文字が飛び込んできた。
『常務、これは流石に……』
「ごめんごめん、びっくりさせちゃったかな？
こういうの昔は詐欺だったりしたけど、最近のやつはちゃんとしてるのよ。
前払いもできるから請求にびっくりしたりすることもないしね。
僕とかに話しにくいなら赤の他人に話したほうがいいでしょって話！」
半信半疑で話を聞くと、仕事の決断や子供の進路など、人に相談しにくい話題を気軽に話しているらしい。
「あとは、キャバクラの女の子の話とかさ！今言いにくいじゃない！」
『自分はもう……』
「まあそう重くなんないで！再婚できるもんもできなくなっちゃうよ！」
そう明るく話している常務を見ると、そこまで怪しいものではない気がしてきたが……。
その飲み会から3ヶ月、良くも悪くも電話占いに頼るほどのことは起こらなかった。
降りかかる試練
その日もうっすら頭痛がしたが、前回ほどではなかった。
しかし、出社すると全員がスマートフォンを見て口々になにか噂をしている。
気になりながらデスクに着くと、部下が真っ青な顔で待っていた。
「この前辞めた広報の吉田さんですが……Twitterでうちの悪口を拡散しているようです……」
※続きは5月30日更新予定「vol.4 ナオキ【後編】立て続けに不幸に見舞われたオトコの起死回生劇」
