雨の中、傘もささずに涙を流しながら、立ち尽くす私。
人生最悪な日って今日みたいなことを言うんだろう。
8年付き合った彼・慎也。
私の20代を捧げたといっても過言ではない恋。
私だけが泣いて彼にすがって、でも彼は涙ひとつ見せない。
8年の恋の終わりってこんなあっけないものなの?
8年の恋、20代を捧げた彼に捨てられたオンナ~飯野ケイコ(31歳)
傷ついた心
彼が家から出ていった翌日。
どしゃぶりの雨に濡れて、案の定、風邪をひいてしまった。
38.3℃と表示された体温計を見つめて、涙があふれる。
「……つらい」
熱が苦しいからじゃない、彼がいないのが「つらい」
身体よりも心のほうが重症だった。
いっそこの熱が下がらなければ、彼が罪悪感を感じて戻ってくるかもしれない。
彼のいない部屋で呆然とそんなことを考えながら、スマホを開くと
大学時代の友人、唯一付き合いのある彩からLINE。
“明後日の土曜って空いてる?午前中に池袋の美容室予約してて、子供はダンナに見てもらえるから、ランチでもどう?”
週末、一人で過ごすのはきっとキツイ。迷いもなく、OKの返事を送った。
二度目のサヨナラ
次の日には熱も下がり、仕事に復帰。
ただの風邪だったらしい。でも、泣き過ぎて腫れた目、メイクもできない状態。
完全リモートで出来る仕事でよかった。
とりあえず、今日は金曜日。
一旦、仕事に集中することで気を紛らわせた。
***
定時後、何もする気が起きず、ベッドに倒れ込む。
すると、インターホンがなった。
応答すると、そこには2日前に出ていった慎也の姿。
慌てて玄関で出迎えると気まずそうに彼が立っていた。
「ごめん、荷物とりにきたんだけど。入ってもいい?」
目を合わせず、そっけなく言葉を発する慎也。
私は、何も言えず、うなずくことしかできなかった。
淡々と荷物を大きなスーツケースに詰め込んでいる慎也に絞り出すような声で話しかけた。
『ねえ、どうしても戻れない?』
すると今日ここにきて初めて慎也と目があった。
「うん、ごめん。もう戻れないと思う」
『私、悪いことしたなら直すから。嫌だよ……』
本当は面倒くさいと思われたくないから、泣きたくなかった。
でも、あふれる涙を止めることができなかった。
「ごめん、もういくね」
そういってスーツケースを持ち、慎也は立ち上がった。
「じゃあ……」
そう言って私に鍵を渡し、部屋を出た。
私はまたひとりで泣き崩れた。
孤独
翌日、土曜日。
池袋のカフェで彩を待っていると入り口から彩が入ってきた。
泣きすぎて、目が腫れコンタクトが入らなかったため、いつもと違うメガネ姿の私に気づかないよう。
少し大きめの声で彩に声をかける。
『彩、こっち』
こちらに気づいた彩は、私に手を振り、店員さんに目配せをして、目の前の席に座った。
「ケイコ!久しぶり!…って、え!どうしたの?目が真っ赤じゃない?」
彩はそう言って心配そうに私の顔を覗きこんだ。
『実は…』
長い付き合いの彩、当然、慎也の存在も知っている彩に
彼が出ていってしまったことを話した。
「……そうだったんだ。大丈夫?」
『ありがとう。私慎也じゃないと駄目なのに……』
「今はつらいかもしれないけど、きっと他にいい人見つかるよ。
くよくよしてても時間がもったいないし、慎也くんのことは忘れて次いこう!」
彩はなぐさめる気持ちで言ってくれたのかもしれないけど
今の私には全く刺さらず、“そんな簡単な恋じゃない”少し胸につっかかりを感じた。
『(この8年、簡単に忘れられるはずない……)』
その後、私はランチもろくに喉に通らず、すぐに解散となった。
私の気持ちをわかってくれる人なんていない。もう相談しない。
藁にもすがる思い
彩と解散し、何だか疲れを感じた私はまっすぐ自宅へ帰った。
家に一人でいると考えてしまう。
どうしても彼じゃないと駄目、この先もずっと一緒にいれると思ってた。
どこで間違えた?時間を戻して、やり直したい。
付き合い始めた頃、間違いなく彼は私を愛してくれていたのに。
いてもたってもいられず、スマホで「復縁するには?」などを調べていると目についたのは電話占いの文字。
『占いで復縁?ご祈願?』
藁にもすがる思いだった私は、いつもだったら目にも止めないだろう電話占いのサイトを開いた。
そこには、電話占いで復縁したという人の口コミと占い師が紹介されていた。
『(本当に……?完全に彼から拒否されている今の状況でも本当に復縁できる?)』
そんな疑問はあったものの、どうしても彼と復縁したかった私は、復縁させた占い師として紹介されていた伽光(ときこ)先生という占い師に鑑定を申込んだ。
「もしもし、こんばんは。伽光(ときこ)と申します。お願いします。お名前おたずねしてもいいでしょうか?」
『ケイコです』
「ありがとうございます。ケイコ様ですね。
早速鑑定いたしますのでお話お伺いしてもいいでしょうか?」
私は8年間付き合っていた彼と別れてしまったこと
私は復縁したいけど、彼には無理と言われていることを伝えた。
「それは辛かったですね。戻りたいわよね。
8年もの恋、簡単に忘れられるはずないですよね。」
そう私は彼を“忘れたい”わけじゃない。戻りたいんだ。
『はい、彼と元に戻れますか?』
「うんうん、そうね。でもお心が通じあってる感じがしますね。
ちょっと彼のお気持ち、みてみましょうね」
「ケイコ様の魂の中に入らせていただき視ていくので、慎也さんのことをイメージしてくださいね」
『はい、お願いします』
「あ……やっぱり、慎也さんね、あなたのこと嫌いになったわけじゃないみたい。
むしろ、あなたのことちゃんと好きで両思いですね。
ただ、何か嫌なことがあったのかしら?彼の魂が叫んでるのを聞くとね、ちょっと自暴自棄になってるわね。」
『自暴自棄?』
「誰かに怒られてるような、そんな感じ。
嫌なことがあって、もうどうでも良くなって心にもないことをあなたに言ってしまったみたい。
ちょっと引くに引けない感じになってるわね」
何も反応せずに続きの言葉を待っていると先生は続けて
「ただ、彼って天邪鬼な方なのかしら……?今、あなたから近づくと逃げちゃうの。
だから今は少し連絡も我慢してみるといいわね」
『確かに……天邪鬼な性格かもしれない。
でも、我慢して待ってても、彼から来ることはあるんですか?』
「うん、大丈夫ですよ。彼とあなたとても太いしっかりした縁があるわ。ちゃんと元にもどれるよう縁結びしておきましょうね」
そうして、先生は縁結びの術を唱えた。唱え終わった後、優しい声で
「あなたにとって少し長いかもしれないんだけど、1ヶ月くらい待ってみて下さい」
1ヶ月……短いようで長いけど、他に頼るものがない私はこの先生の縁結びに期待するしかない。
『はい、よろしくお願いします』
***
そして、鑑定を受けてちょうど1ヶ月を過ぎようとしたとき、私に嘘みたいな偶然が起こった。
※続きは6月13日更新予定「vol.5 ケイコ【後編】ドラマのような再会。捨てられオンナに起きた奇跡」