コロナ渦で出会いもなく、周りは既婚者ばかり……、半ば恋愛に絶望していた及川ユリ、32歳。
「30過ぎて独身はどこが悪いの?」10年ぶりの同窓会をぶち壊されたオンナ
「(本当に最悪…、同窓会なんて行くんじゃなかった)」
部屋に帰るなり、この日のために買った新しいワンピースを雑に脱ぎ捨てた。
ユリを苛つかせた原因は、つい1時間前の出来事。
東京駅から徒歩10分、レストランの大個室を貸し切って行われていたのは高校の同窓会。
コロナ渦ということもあり、出席者は20名ほど。ノンアルコールのランチ立食会。
ユリ自身も10年ぶりの開催ということもあって、久しぶりの友人との再会を楽しみにしていた。
仲が良かった友人カナは、少し遅れているようで、まだ着いていないようだ。
「及川さん、久しぶり!俺のこと覚えてる?」
受付近くでカナが来ないかと様子を伺っている私に、声をかけてきたのは、隣の席だった五十嵐くん。
『五十嵐くん、覚えてるよ!久しぶり!』
五十嵐は、前回の同窓会には来ていなく、本当に高校ぶりの再会だったが人懐っこい笑顔は変わっておらず、ユリはすぐにわかった。
そして、その他にも2~3人友人が集まってきて、久しぶりの再会に盛り上がっていると
誰かも忘れてしまうレベルの男子が話に割り込んできた。
「及川さんだよね~!うわー!久しぶり!」
ユリは、誰だっけ?と少し戸惑いながらも挨拶を返した。
『そうだね~久しぶり…』
その男子は、ユリの左手元に目を移すと
「指輪してない…ってことは独身?なんで結婚しないの?彼氏は?」
ズケズケとデリカシーもなく聞いてくる男子。
ユリの戸惑いを読み取った五十嵐は「おい、やめろよ」と声をかけたが
「もしかして及川さん、今日は結婚相手を見つけるために同窓会来たとか?
30歳過ぎて未婚で同窓会くるって、すげー勇気だよね!結婚したくて必死って感じ?」
その一言に場の空気が一気に凍りついた。
『(な・ん・だ・こ・い・つ)』
こういう時、漫画やドラマだと、ここでズバッと言い返す人がいて、スカッとする展開になるが
この場でその男子にズバっと言い返す人はユリを含めおらず、苦笑いでその場をやり過ごすことしかできなかった。
そんな苦笑いの中、会場の中心からノンアルコールのシャンパンを片手に幹事の男子が乾杯の音頭をとる。
「はい!みなさん注目!乾杯しましょう~!飲み物を手にとってください」
ユリはいたたまれない気持ちから、乾杯の音頭に紛れてその場を離れ、会場を出た。
『(あんなヤツの言ったことに傷ついてるって思われたくないけど…)』
ユリは、どうしてもこの後の同窓会を楽しめる気持ちにはなれず、遅れてくるカナに謝罪のLINEを入れて、帰路についた。
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部屋着に着替えたユリは、なだれこむようにソファに倒れ込んだ。
せっかく楽しみにしていた同窓会、名前も思い出せない男子のせいでユリにとって最悪の一日になってしまった。
『(こんなの慣れてるはずなのに、いちいち落ち込んでいたって仕方ないのに……)』
30歳過ぎて独身でいると、今回みたいにデリカシーのない発言に傷つくことも多い。
その度、ユリが感じることは…
『(仕事も頑張ってる、プライベートだって恋人はいないけど充実してる、
何も私のこと知らないくせに…
結婚してないってだけで、どうしてこんな惨めな気持ちにならなきゃいけないの)』
やるせない悔しい気持ちと、こんなことで落ち込んでしまう自分自身が惨めに思えて、涙が溢れた。
ーピロンッ
LINEのメッセージ通知音で、ユリは5分くらい眠ってしまったことに気づき、スマホを手に取った。
メッセージを開くと
「及川さん、急にごめん。五十嵐です。」
連絡先を知らないはずの五十嵐からのLINEだった。
※続きは4月11日更新予定「vol.1 ユリ(30歳)の場合【後編】大人女子の恋は難儀?最悪の同窓会から幸せを掴んだオンナ」